2025.05.16 Vol.4 SDGsをネパールの子どもたちが評価してみた 保健・栄養教育防災・気候変動 「子どもや若者世代をとりまく社会課題」といえば、あなたはどのようなことを思い浮かべますか? 例えば、日本では以下のようなことが、テレビや新聞などでニュースや話題になっていたり、議論されていたりと、多くの人びとの関心を集めています。 子ども虐待(児童虐待) しつけと称した体罰 いじめ 不登校 厳しい校則 子どもの貧困 教育費の高さ 体験格差 ヤングケアラー など… 一方で、海外の子どもたちは、どのような社会問題に直面していたり、どんなことに課題を感じているでしょうか?今回は、ネパールの子どもたちの問題意識について、一緒に見てみましょう。 ネパールの地図:ネパールは、中国とインドの間に位置する南アジアの国。首都はカトマンズ(出所:外務省 ネパール) ネパールの国旗:四角い旗ではなく、右側がギザギザな形をしているのが特徴的(出所)世界の国旗 子どものためのスコアカード 『子どものスコアカード』は子どもの視点から、SDGs(持続可能な開発目標)の達成度合いについて、みんなで話し合ったり、子どもの声を記録するためのワークシートです。 ★『子どものスコアカード』のダウンロードはこちらから(使い方の解説に飛びます。) この記事では、実際に『子どものスコアカード』を使って、いくつかのSDGsの目標の達成度合いを評価したネパールの子どもたちから出てきた意見を紹介します。 ネパールでの取り組み~子どもたちから見たSDGsの達成度合い~ ネパールでは、子どものクラブ活動の一環として、スコアカードを使用したワークショップを行いました。 ネパールのマデシュ州で、子どもクラブのメンバーが「子どもスコアカード」の内容を発表している様子 この取り組みでは、次の5つのゴールに焦点を当てました。 目標3 すべての人に健康と福祉を目標4 質の高い教育をみんなに目標5 ジェンダー平等を実現しよう目標13 気候変動に具体的な対策を目標16 平和と公正をすべての人に 以下は、ネパールの子どもたちから出てきた意見です。 目標3 すべての人に健康と福祉を きれいな水が足りない ネパールの多くの町や村では、安全な飲み水がまだ十分ではありません。そのため、人々は川や池の水で服を洗ったり、お風呂に入ったり、飲んだりしています。汚れた水は病気のもとになり、特に子どもたちの健康に大きな影響を与えます。しかし、ほかに選択肢がないのが現状です。 病院が遠い、またはいっぱいで治療が受けられない 大きな町にはしっかりした病院がありますが、どこも混んでいて、治療費が高いため、お金のある人しか簡単には利用できません。 一方で、地方では、医師や看護師がとても少なく、病院までの道のりも遠く、通うのは大変です。そのため、都市に住む人と地方に住む人の間で、大きな格差が生まれています。 特に貧しい家庭の子どもたちは、病気になってもすぐに治療を受けられず、命に関わることもあります。山が多く移動が困難なため、医療従事者も地方で働きたがらず、この問題はなかなか改善されていません。すべての子どもが平等に医療を受けられる社会にするために、もっと多くの支援が必要です。 こころの健康について話しにくい ネパールでは、多くの子どもたちが不安や悲しみを感じています。特に、マデシュやカルナリ(ネパールの州)では、「こころの悩みを話すことはよくない」と考えられがちで、助けを求めることが難しい状況です。中には、深く悩みすぎて自分を傷つけようと考えてしまう子もいます。 ★子どもたちが望む変化 安全な水と医療を、大きな町だけでなく、すべての地域で受けられるようにしてほしい。 子どもたちが安心してこころの相談ができるサービスを増やしてほしい。 「こころの悩みは相談していい」ということを広めてほしい。 目標4 質の高い教育をみんなに 仕事のために学校を辞める子どもたち 一部の子どもたちは仕事を探すために学校を辞めます。中には、家族が子どもの年齢をいつわって、早く働かせることもあり、危険な状況を生んでいます。 教育の格差 女の子や障害のある子ども、特定のコミュニティに属する子どもたちは平等に教育を受けられません。 LGBTQ+[注]の子どもたちは差別を受け、学校に行きにくくなっています。 差別を受けているコミュニティは教育を優先することが難しく、そのため子どもたちは学校を辞め、貧困の連鎖におちいってしまいます。 ★子どもたちが望む変化 貧困や差別に対処し、貧しい家庭の子どもたちの教育の機会が限られてしまわないよう、すべての子どもに十分な支援を提供してほしい。 学校で保護者や子どもたちが教育に関わることの決定に参加できるようにしてほしい。 職業に関するアドバイスや訓練を増やし、すべての子どもが安全でサポートを受けられる環境をつくってほしい。特に、障害のある子どもやLGBTQI+の子どもたちのために支援を強化するべき。 [注]LGBTQI+とは、英語のレズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、バイセクシャル(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)、クエスチョニング・クィア(Questioning・Queer)、インターセックス(Intersex)の頭文字(かしらもじ)をとった言葉です。色々な性や性別の考え方があることを、分かりやすくまとめたものです。日本のLGBTQI+の人の割合は、左利きの人とほぼ同じぐらいの数がいるそうです。もっと知りたい人はこちら:小学生にもわかる、LGBTQ+(エルジービーティーキュープラス)自分らしく生きるPROJECT 目標5 ジェンダー平等を実現しよう なくならない子どもの結婚 児童婚(子どもの結婚)を止めるための取り組みやキャンペーンがあっても、多くの家庭では「女の子は早く結婚するべき」という考えがまだ根強く残っています。 女の子の教育は大切にされない 男の子に比べて、女の子の教育はあまり重視されず、学ぶ機会が少なくなっています。 なぜ早く結婚させるの? 貧しさから抜け出すために、娘を早く結婚させる家庭もあります。昔からの考え方や、経済的な理由が関係しています。 ★子どもたちが望む変化 児童婚をなくすためには、結婚・性別・ジェンダーに関する誤った考え方を変える必要があります。これらは子どもの権利を守るために大切です。 すべての不平等に目を向ける。男女の不平等だけでなく、障害のある子どもなど、さまざまな不公平も考えなければなりません。一人ひとりに合った解決策を求めます。 目標13 気候変動に具体的な対策を 気候変動と子ども参加 多くの家は川の近くや地滑りが起こりやすい場所にあり、台風や洪水などの自然災害にとても弱いです。放牧地や水源も減っています。 一方で最近では、子どもや若者も気候問題の話し合いに参加するべきだという考えが広まっています。子どもたちが実際に経験していることをもとに、より良い政策を作ることが大事だと考えられるようになってきました。 気候危機による不平等 貧しい家庭の子どもたちは、猛暑や寒波、洪水などの被害を受けやすく、気候危機は家族の仕事や収入にも影響を与えています。 この結果、さらに貧しくなった家庭は、生きていくために子どもを結婚させるケースもあります。このように、気候危機は環境問題のほかにも、子どもたちの未来に大きな影響を与えます。 ★子どもたちが望む変化 気候危機の話し合いは専門家ばかりで進められ、実際の影響を受けている子どもたちの経験が無視されがちです。 環境問題は教育や健康、家族の生活にも関わるため、特別な問題として切り離して考えるのではなく、子どもの権利全体とつなげて議論されるべきです。 政府は、子どもがリーダーとして気候変動について考え、発言できる機会をつくるべきです。子どもたちは、学校のクラブや若者のグループを通して地域の政府に働きかけることができます。みんなで力を合わせることが大切です。 目標16 平和と公正をすべての人に 身近なおとなからの暴力 多くの子どもたちは、家庭や身近なおとなからの暴力が大きな問題であると感じています。親や保護者から厳しいしつけを受けたり、学校や地域社会で暴力にさらされたりすることが日常的に起こっています。 また、公共交通機関や街中での嫌がらせを経験する子どもも多く、移動時や外出時に常に不安を感じています。 不平等の問題 子どもたちの意見が社会の意思決定に反映されるべきだという意識は高まっていますが、実際には、まだ多くの壁があります。 大人の偏見や権力によって、子どもが発言できる場が限られ、形だけの「参加」に終わることも少なくありません。本当の意味で子どもたちの意見が尊重されることが求められています。 結びつく問題 家庭内暴力や厳しいしつけは、子どもたちの心の健康にも深刻な影響を与えています。 不安や恐怖から、人と関わることを避けるようになったり、社会とのつながりを持つことに消極的になったりする子どももいます。こうした状況が続くことで、子どもたちは孤立し、心理的な負担がますます大きくなってしまいます。 ★子どもたちが望む変化 暴力や健康、栄養の問題をつなげて考え、支援サービスを増やすべきです。 支援は、ジェンダー格差にも配慮し、経済的に困っている家庭を助ける仕組みにしていくことが大切です。 すべての子どもが社会の決定に参加できるようにし、学校や地域で多様な意見が反映されるようにすべきです。 最後に 『子どもたちのスコアカード』を通して、子どもたちは貧困、教育、健康といった一つ一つの個別の問題を、点と点で結びつけるように、それぞれが関連し合っていることを見出しました。 ネパールの子どもたちの意見は、解決策は一つの問題だけに焦点を当てるのではなく、より大きな視点で考えなければならないことを私たちに気づかせてくれます。 みんなが安心して学び、暮らせる世界をつくるために、おとなも子どもも一緒に考えて行動していくことが大切です。 <ワークショップの実施概要> 参加者数: 56人(直接参加者や実施までのプロセスで関与した人を含む) 実施場所: ネパールの7つの州すべてから、州レベルの子どもクラブの代表が参加 グループ構成: フォーカスグループ・ディスカッションに直接参加した40人の子どもたちの内訳は、女子25人、男子14人、LGBTQI+の子ども1人 ファシリテーター: ネパールでは、成人の市民社会組織や子どもの権利の専門家がワークショップに参加し、情報の正確性などを確認しています。 この記事を書いた人:アドボカシー部インターン ハギヤユカリ [背景の補足] 2023年12月から2024年7月にかけて、セーブ・ザ・チルドレンが開発した『子どものスコアカード』のワークシートを使って、コロンビア、ジョージア、ネパール、南アフリカ、ジンバブエの5ヶ国でSDGsの評価を試験的に行いました。この取り組みには、約500人の子どもたちが参加しました。 参加した子どもたちの年齢は11〜18歳で、各国では地域ごとに幅広い子どもたちに届くよう努めました。特に、不平等や差別の影響を受けやすい子どもたち(障害のある子ども、先住民の子ども、カーストや民族的マイノリティ、移民の子どもなど)も参加できるように留意しました。 各国の子どもたちやセーブ・ザ・チルドレンの職員、協力団体は、それぞれの状況に合わせて『子どものスコアカード』を柔軟にアレンジしたり、重点を置く分野や課題、目標などをそれぞれで設定しました。 『子どものスコアカード』は、できるだけ多くの子どもや地域で活用できるよう作られた柔軟なワークシートです。統計的に代表性のあるデータではありませんが、それぞれの子どもの体験や意見を記録し、政策決定者が考えるべき観点として大切な情報を提供しています。