2025.03.18 Vol.1 【気候変動】 未来の天気はどうなる?気候危機が世界の子どもたちに与える影響 防災・気候変動 皆さんは、「気候危機」が私たちの未来にもたらす影響について、どれぐらい想像したことがあるでしょうか。 地球は暑くなりすぎて、「地球温暖化」から、今や「気候危機」と呼ばれるようにまでになりました。 気候危機は世界中で深刻な問題を引き起こしていますが、多くの科学者は、その主な原因は人間の活動によるものだとしています。 例えば、電気を作るために石炭や石油、ガスなどの「化石燃料」を燃やすことが、世界の二酸化炭素(CO₂)の排出量の約90%を占めていると言われています [1]。 その他にも、大量の森林伐採や、工場からの排気ガスなどにより、大気中のCO₂やその他の温室効果ガスが増え、地球の気温が上昇しているのです。 また、このように地球の温度が上昇する「地球温暖化」が進むと、夏がさらに暑くなっていくだけでなく、大雨のような異常気象が増えたり、雪害が発生しやすくなったり、生態系が大きく変化するなど、さまざまな問題が発生します。 乾いた大地で亡くなった牛の死がい。干ばつにより、アフリカのジンバブエの人口の47%にあたる760万人が深刻な飢餓(きが)の危機に直面しています。 そして、その影響を最も大きく、長い期間にわたって受けるのは、現在の若い世代なのです。 実は、気候危機によってもたらされる影響は、子どもの権利条約で定められている多くの子どもの権利の侵害につながっています。(これについては、次の記事でくわしく解説します。) 気候危機は日本を含む世界の子どもたちの生活に一体どのような影響を与えているのでしょうか? 気候危機が私たちの生活に与える影響 気候危機は、すでに地球に大きな不安定さをもたらしています。 このまま環境を汚染し続け、地球温暖化が進むと、それによる私たちの生活への影響もいっそう加速していきます。いくつか具体例を見てみましょう。 異常気象の増加 近年、猛暑や台風、ハリケーン、大雨、洪水、山火事などの災害が世界各地で頻発しています。これらの災害によって、住宅や学校、病院などの建物が壊れ、多くの人々の生活が脅かされています。 例えば、文部科学省によれば、2024年9月21日から22日に石川県の能登半島で発生した大雨は、地球温暖化が関係しています。この大雨を対象に、地球温暖化の影響をシミュレーションしたところ、地球温暖化がなかったと仮定した場合と比べて総雨量(9時間積算雨量)が 約15%も増加していることが分かりました[2]。 このように、大きな地震[注]が発生した地域で、さらにこうした大雨のような自然災害が重なることもあります。 その中で、子どもや高齢者など、弱い立場に置かれがちな人々は特に大きな影響を受けやすいと言われています。 [注] 2024年1月1日、石川県能登半島を中心に発生した最大震度7の能登半島地震。特に石川県の珠洲市(すずし)や輪島市(わじまし)などで大きな被害が出ました。 2020年生まれの子どもが1960年生まれの人と比べて、生涯で経験する異常事象が何倍に増えるかを示した図(2015年に採択されたパリ協定の排出削減目標に基づいて、世界の気温が産業革命前の水準よりも2.6℃~3.1℃上昇した場合。熱波については、生涯で経験する回数は6.8倍も異なると予測されています。) 出典:Save the Children 「気候危機の中に生まれて」(2021.9.27) また、セーブ・ザ・チルドレンがブリュッセル自由大学と行った調査では、2020年生まれの子どもは1960年生まれの人と比べて、生涯で経験する異常事象が何倍にもなると予測されました。 気温上昇と健康被害 気温が上がることで、熱中症や脱水症状になる人が増えています。また、大気汚染が進むと、肺の病気やぜんそくなどの健康被害を引き起こす可能性も高くなります。 世界では夏の異常な暑さにより、休校になる学校が増えています。アメリカのマサチューセッツ州からニューヨーク州にかけて、多くの学校が授業を短縮したり、休校にしたりしています。理由は、エアコンがない古い学校も多く、教室が暑すぎるからです。 暑さは子どもたちの健康に悪影響を与えるだけでなく、集中力や記憶力にも大きな影響を及ぼします。 ハーバード・ケネディ・スクールの2018年の研究によると、エアコンのない学校では、年間の平均気温が1℃上がるごとに、生徒の学習成果が1%下がることが分かりました。暑い環境では集中しにくく、勉強がはかどらなくなるのです[3]。 猛暑による休校だけではなく、アフリカ大陸のザンビアやソマリアのように学校にいくことができなくなった子どもたちもいます。ザンビアの首都ルサカでは暑さで子どもたちが体調を崩したり、雨が降ると洪水が起きたりして感染症が流行りやすくなったり、生徒たちが学校を休まなければならないことがあります。ソマリアでも、干ばつの影響で学校に通えなくなることが少なくありません。 海面上昇と住む場所を失う人々 地球の温度が高くなったことで、南極や北極の氷が溶け、海面が上昇しています。その結果、海沿いの地域では水位が上がり、住民は安全のため自分の家から離れなければならないことが出てきています。 すでに、南太平洋の島国では、海面上昇によって土地が水没し、多くの人が別の国へ移住せざるを得ない状況になっています。 気温が上昇しても雪が降る? 地球温暖化で気温が上がると、なんとなく雪が減りそうと思ったことはありませんか? 実は気温が上がると、雪や雨の量が増えてしまうことも起きています。 気温が高くなると、海の水がたくさん蒸発して雲ができやすくなるため、大雪や大雨が降りやすくなるのです。 短時間に大量に降り積もる雪は「ドカ雪」と言われています。 寒波がくると前よりもっとたくさん雪が降り、雪害(大雪の被害)が大きくなることもあります[4]。 収入への影響 地球温暖化によって雪害が増えることについて説明しましたが、その結果、家庭の収入にも大きな影響を与えてしまうことがあります。その例の一つに、モンゴルの「ゾド」があります。 ゾドも、地震や大雨のように自然災害の一つですが、遅発的災害(ちはつてきさいがい)と呼ばれています。 気候変動によって夏に干ばつが発生し、牧草が不足します。そうすると、冬の厳しい寒さと大雪の中で家畜がエサを得られず、大量死してしまうことが起きています[5]。 このような遅発的災害、つまり一つの事象(例えば夏の干ばつ)が原因となって、別の災いが遅れてやってくることにより、結果的に遊牧民の生計が脅かされ、家計の収入が減少します。これがさらなる負の連鎖を呼び、子どもたちの栄養状態が悪化したり、教育のためのお金が減らされてしまったり、保護者の収入減により学校の中退リスクが高まるなど、子どもたちの健康や教育に広い範囲で影響を及ぼしていきます[6][7]。 まとめ 気候危機は、環境の問題だけではありません。 この問題は、世界中の子どもたちの「健康への権利(第24条)」や「教育を受ける権利(第28条)」など、いくつもの基本的な子どもの権利の侵害につながっています。 次回の記事では、気候危機と子どもの権利の関係について解説します。 この記事を書いた人:アドボカシー部インターン ハギヤユカリ [1] 国連広報センター(UNIC)「気候変動の原因」 [2] 文部科学省 気象庁気象研究所 令和6年9月の石川県能登の大雨に地球温暖化が寄与-イベント・アトリビューションによる結果- [3] ハーバード・ケネディ・スクール. (2018). When it’s hot, student learning suffers. ハーバード大学ケネディスクール. [4] 国土交通省 Grasp 「温暖化でドカ雪増加? 未来の雪の降り方とは」 2023.1.20 [5] CNN 「死んだ家畜など470万頭以上、モンゴルで半世紀ぶりの異常寒波」 2024.3.22 [6] セーブ・ザ・チルドレン 「遊牧民の生活脅かす「ゾド」-エルニーニョ現象がモンゴルに与える影響」 2016.2.25 [7] セーブ・ザ・チルドレン 「モンゴルで、心理社会的サポートを開始:寒雪害「ゾド」、22万人に影響」 2016.4.4