2026.05.19 多様性の視点から考える紛争下で暮らす子どもへの教育支援 教育 この記事と特に関連が深い子どもの権利・第23条:障害のある子ども(身体や心の障害にかかわらず、社会に参加し、教育や医療サービス、仕事などの機会を得る権利)・第34条:性的搾取からの保護(不法な性行為をさせられることや、性的な写真や動画を撮られることなどから守られる権利) 中東および周辺国をはじめ、世界各地で紛争が多く発生しています。その中で、子どもたちはますます厳しい状況に直面しています[1]。紛争下で暮らす子どもたちは、殺害や負傷、誘拐、家族と離れ離れになってしまうこと、そして性暴力など、さまざまな危険に日常的にさらされています。 こうした状況を多様性[注]の視点から見てみるとどうでしょうか。紛争の影響は、すべての立場の子どもたちに等しく(同じように)及ぶわけではありません。性別、障害、民族、避難民(紛争などにより元々暮らしていた場所から逃れなければならない人びと)の立場などの影響で、深刻な状況の中でも、さらなる困難がのしかかる子どもたちがいます。 [注]人(ひと)にはそれぞれ生まれつきのちがいや、生きていく中で獲得したちがいがあり、それらのちがいを含め一人ひとりが貴重な存在です。そのようなちがいを認め合う考え方のことを「多様性」といいます[2]。 紛争下でより弱い立場に置かれがちな少女たち まず紛争が少女たちに与える影響を考えてみましょう。 紛争が激しくなると、少女は家庭・学校・地域社会で暴力や差別にさらされやすくなる傾向があります。その国の法律や支援の体制が、性別によって異なるといった不平等な仕組みになっていたり、社会慣習などが女性にとって不利に働くこともあります。 例えば紛争など危機的な状況が起きている中で、家庭では暴力が増えたり、行動がより制限されることがあります。学校でも、通学路や校内での性暴力や嫌がらせのリスクが高まります。また、家計を助けるために、少女たちはまだ子どものうちに結婚させられたり、家庭内で男子を優先するために女子は教育を受ける機会を閉ざされてしまうことも増えます。 社会のルールや法律がうまく働かなくなってしまうことで、少女たちの権利を守る仕組みが機能しなくなり、暴力がさらに見過ごされやすい状況が生まれてしまうのです。 こうした中で、教育は少女たちの安全と尊厳(大切にされること)を守る重要な役割を果たします。安全な通学手段の確保、学校や通学路の照明の整備、鍵のかかる男女別トイレや生理の時に必要なもの・場所の整備などは、少女たちが安心して通える学校・教育施設をつくるために欠かせません。 また、学校で使う物の支給や奨学金、学校給食といった教育支援は、家庭にとっても「少女を学校に通わせ続ける」と考えやすくする助けになります。教育は、目の前の安全を守るだけでなく、長年続いてきたジェンダー不平等(性別によって生じる不平等)の価値観に向き合い、将来を変えていく力にもなります。 紛争下でさらに取り残されやすい障害のある子どもたち 世界の障害のある子どもたちの多くは、医療や福祉が十分でない国や地域で暮らしています。そこに紛争が起こることで、状況は一層深刻になります。 爆発や不発弾(爆発しないまま残っている爆弾)による重いけが、病院が閉鎖されることにより治療が受けられなくなること、恐怖が続く生活によるこころへの深い影響などにより、障害のある子どもたちが新たに増えています。パレスチナ・ガザ地区では、爆撃音の影響によって、聞こえにくさなど、聴覚障害を持つ子どもが増えているとの報告もあります[3]。 障害のある子どもたちは、偏見や差別に加え、学校の設備が十分でないことや合理的配慮[注]の不足、社会的・文化的な違いなど、複数の困難が重なり、教育から排除されやすい立場にあります。特に障害のある女子は、性別と障害の立場が重なることで、最も見えにくく、支援が届きにくい存在になりがちです。 [注] 合理的配慮(ごうりてきはいりょ)とは、障害のある人がほかの人と同じように生活したり学んだりできるように、必要な手助けや調整をすることです。無理のない範囲で、過度な負担にならない形で環境を整え、みんなが平等に参加しやすいようにすることが大切です[4]。 誰ひとり取り残さない教育を目指して 紛争下の教育を支援する国連基金「Education Cannot Wait (教育を後回しにはできない基金)」[注]では、こうした課題を踏まえ、少女や障害のある子どもを含む、多様な子どもたちが共に学び合う公平な教育を届けることを重視しています。 特に一人ひとりのニーズ(必要としていること)に応じた支援を行うこと、そしてすべての教育プログラムにおいて取り残されやすい子どもたちの視点を最初から組み込むことを大切にしています。これは多様性の考え方に基づき、子どもたちを「守られる存在」だけでなく、「社会をつくっていく大切な一員」として位置付ける取り組みでもあるのです[5]。 [注]Education Cannot Wait(教育を後回しにはできない基金)は、緊急事態や長く続く危機の下(もと)で影響を受けている子どもや若者に教育を受ける機会を提供することを目的としてつくられた国連基金です。 紛争下の子どもたちは、置かれた状況や背景によって受ける影響が大きく異なります。だからこそ、多様性を認め、不平等をなくし、すべての子どもが学べるようにする教育支援が欠かせません。教育は、子どもたちの命と尊厳を守ると同時に、紛争が終わった後の社会を支える基盤でもあります。多様性の視点をもち、誰ひとり取り残さない教育を実現することは、持続可能な平和への第一歩に繋がります。 考えてみよう この記事では、紛争で特に影響を受ける子どもたちや、紛争下の教育を支援する国連基金「Education Cannot Wait(教育を後回しにはできない基金)」を紹介しました。影響を受ける子どもたちを減らすために、どのような支援が必要か考えてみよう。また、教育を後回しにはできない基金のように、相手の状況や文化に配慮しながら支援するためには、どんなことが大切だろう? アドボカシー部社会啓発チーム インターン [1] Save the Children(2025)、 2024年、紛争下における子どもの重大な権利侵害は1年で30%増え、史上最悪の水準に [2] あすのコンパス(2024)、 【シリーズ第1回:災害時の多様性について考える】災害と多様性 (Save the Children US (2019-2021), “Diversity, Equity, and Inclusion Strategy“より和訳) [3] Le Monde(2026), “In Gaza, the war is creating a new generation of deaf children” [4] 政府広報オンライン(2025)、「事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化」 [5] Education Cannot Wait(2026), ”Gender Equality and Empowerment of Women and Girls” [6] UNICEF(2016)、 世界的な教育危機に取り組む 新たな基金が設立 「Education Cannot Wait」 緊急時下こそ教育を