自分と社会・世界 ISSUES

  • Home
  • 自分と社会・世界
  • Vol.2「子どもの権利条約」報告審査プロセスにおける子ども参加〜アイルランド編〜

2026.02.19

Vol.2「子どもの権利条約」報告審査プロセスにおける子ども参加〜アイルランド編〜

教育

この記事と特に関連が深い子どもの権利
・第12条「意見を表す権利」(自分に関わるすべてのことについて意見を聴かれ、その意思を大切にされる権利) 
・第13条「表現の自由」(さまざまな方法で情報や考えを得て、自由に伝えたり表現したりする権利) 

 

前回の記事では、子どもの権利条約を批准した国(守る約束をした国)が、定期的に子どもの権利を守るための取り組みを国連子どもの権利委員会に報告し、審査されるという「報告審査プロセス」を紹介しました。 

実は「報告審査プロセス」では、各国の政府が提出する報告書とは別に、NGOや独立した第三者機関など、政府以外の組織も、任意で国連子どもの権利委員会に対し自国の子どもを取り巻く状況について報告書を作成し、提出することができます。これらのケースでは、子どもたちが直接報告書の作成に関わることもあります。 

実際に、子どもたちはどのように参加しているのでしょうか?国によってその方法は異なりますが、今回はアイルランドの事例を見ていきます! 

アイルランドの場所を示した地図
アイルランドの場所。アイルランドはイギリスのすぐ隣に浮かぶ島国です。日本ではアイスランドと間違われることも… 

アイルランドの報告審査プロセスにおける子ども参加  

アイルランドでは、子どものためのオンブズマン事務所[注]が子ども・若者世代と協力し、2022年8(がつ)に子どもの権利委員会に “Pieces of Us”(訳:私たちのかけら)という報告書を提出しました。報告書には、アイルランドで育つ子どもたちのリアルな声と、子どもたちからの提案がまとめられています。 

[注]オンブズマンとは、行政が正しく仕事をしているかを監視し、市民からの苦情を受けて調査や改善を求める独立した第三者機関です。子どもオンブズマンは、子ども専門のオンブズマンです。子どもの側に立って関係者との調整を行い、必要に応じて調査や勧告をすることで問題解決を目指します。 

アイルランドの子どもたちが作成した“Pieces of Us”の表紙。3本の手がパズルを真ん中に向けて差し出すイラスト
アイルランドの子どもたちが作成した“Pieces of Us”の表紙。こちらのサイトから読むことができます!

どのように子どもの声を集めたの?

“Pieces of Us”では、①オンライン調査 ②個別グループでの聞き取り という2つの方法で、できる限り多様な子どもたちの声を集められるよう工夫しました。 

  1. オンライン調査 

オンライン調査は、SNSや子ども関連の団体を通じて周知され、アイルランドの子どもにとっての良いこと・良くないこと、アイルランドで子どもたちの生活をより良くするために必要なことを自由に回答してもらう形式で行われました。最終的に5,515件の回答が集まり、回答の中から特に重要なテーマが選ばれました。「子ども支援のサービス」「平等と反差別」「コミュニティと娯楽」「子どもの声」「特別な保護を必要とする子ども」の5つです。 

 

  1. 個別グループでの聞き取り 

個別グループでは、オンライン調査を通じて選ばれたテーマに絞って聞き取り調査が行われました。聞き取り調査を行ったグループの中には、ユース団体の所属メンバーや知的障害のある子ども、ロマ[注]の子どもをはじめ、さまざまな背景を持つ子どもたちが参加しました。対面やオンライン会議システムを通して、大人のサポートのもとで行われた子どもたちの議論が収録され、その内容が報告書に反映されました。 

[注]ロマとは、中東欧を中心に各地に居住する民族集団です。長年「流浪の(たみ)」(定住しない人々)として迫害されており、現在も貧困などさまざまな課題に直面しています。インド北部のアーリア人が起源と考えられています。 

 

また、オンライン調査や聞き取りを実施するにあたり、非常に重要な役割を果たしたのが「ユース・アドバイザリー・パネル(YAP:Youth Advisory Panel)」です。YAPは、多様なバックグラウンドを持つ13歳から17歳の子ども20人で構成され、オンライン調査の質問内容や個別グループでの聞き取りの方法、集まった意見の分析など、さまざまな形で報告書の作成に関わりました。 

子どもの権利委員会にどんな意見・メッセージを届けたの?

報告書にはアイルランドにおいて改善すべき問題について、子どもたちの視点で多くの意見が集められています。 

例えば、 

・メンタルヘルス(こころの健康)の支援が足りていないこと 

・家賃が高くなり、ホームレス(住む家がない状態)の問題が深刻になっていること 

・「リービング・サーティフィケート」と呼ばれる大学入試が単なる暗記の試験となっており、改善の余地があること 

・トラヴェラー[注]やロマやLGBTQ+の子どもに対する差別やいじめが存在すること 

などの問題が挙げられました。 

 

[注] トラヴェラー(アイリッシュ・トラヴェラー)とは、主にアイルランドに居住する移動型の民族集団で、一部はシェルタ語と呼ばれる独自の言語を話します。トラヴェラーに対しては根強い差別が残っています。 

[注] LGBTQ+とは、英語のレズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、バイセクシャル(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)、クエスチョニング・クィア(Questioning・Queer)の頭文字(かしらもじ)をとった言葉です。色々な性や性別の考え方があることを、分かりやすくまとめたものです。日本のLGBTQ+の人の割合は、左利きの人とほぼ同じぐらいの数がいると言われています。
 

どのように子どもたちの声が届けられたの?

報告書の作成に関わったYAPのメンバーたちは、子どものためのオンブズマン事務所のサポートのもと、2022年9(がつ)にスイスのジュネーブに行きました。そこで子どもたちは、子どもの権利委員会のメンバーに直接会い、自分たちの問題意識を伝えたのです。特に、報告書の中でも挙げられた教育や差別、メンタルヘルスをめぐる課題などについて取り上げました。 

意見を届けたあとは?

2023年3(がつ)に、子どもの権利委員会はアイルランド政府に対して子どもの権利をさらに促進するための勧告[注]を行いました。 

これに対し、YAPのメンバーは、自分たちの問題意識を国内・国際レベルで大人に伝えることができたことを踏まえて、それまでの調査に協力してくれた子どもたちと再会し、議論したいと考えるに至りました。そこで、“Pieces of Us – What’s Next?”(訳:私たちのかけらーその次は?)と題した大規模な子ども会議を開催し、アイルランドの子どもを取り巻くさまざまな課題に関して議論することにしました。

 

この会議には、難民、トラヴェラー、ロマや障害者など声が聴かれにくい背景を持つ子どもたちも含め、12歳から17歳までの子ども130人が参加しました。この子ども会議の成果は、新しい報告書にまとめられました[注]。この報告書では、子ども会議で議論された内容に基づいて新しい提言が示され、今後数年間で特に優先すべき課題などがさらに具体化されることになりました。 

[注] このような勧告をまとめた文書のことを、「総括所見(そうかつしょけん)」と呼びます。 

まとめ

アイルランドでは、子どものためのオンブズマン事務所のサポートのもと、子どもたちの声がしっかりと子どもの権利委員会に届けられていることがわかりました。その根底には、子どもたちが当事者として主体的に声を上げることに大きな意義がある、という考え方があります。 

実際に、報告書の初めに子どもたちの力強いメッセージが載せられています。 

この報告書をすべての人に読んでほしい。こうした報告が今後の“標準”となることを望みます。子どもに関する報告をするなら、その過程に子どもたちを参加させてください。私たちのことを、私たち抜きで決めないで。アイルランドの子どもたちが直面する問題について語るのに、子どもたち自身以上に適した存在はいません。この報告書全体を通じて、子どもたちの体験は、子どもたち自身が望む方法で語られています。今回が特別な手法だと思われたくありません。単なる見せかけであってはならないのです。 

 

次の記事では、子どもの意見を国連に届けるためのモンゴルでの取り組みについて取り上げます。ぜひお読みください! 

  

アドボカシー部社会啓発チーム インターン 

[出典] 
本記事は、以下の2本の報告書をもとに執筆されています。 
Youth Advisory Panel, Ombudsman do leanai for children – Pieces of Us: A Children’s Report to the UN Committee on the Rights of the Child 
Youth Advisory Panel, Ombudsman do leanai for Children – Pieces of Us: What’s Next? 

この記事はいかがでしたか?

一覧へ戻る