2026.03.12 Vol.4「子どもの権利条約」報告審査プロセスにおける子ども参加〜ノルウェー編〜 教育 この記事と特に関連が深い子どもの権利 第12条「意見を表す権利」(自分に関わるすべてのことについて意見を聴かれ、その意思を大切にされる権利) 第42条「子どもの権利を知る権利」(大人だけでなく子どもも「子どもの権利条約」を知る権利) 前回の記事では、モンゴルの子どもたちがどのように子どもの権利条約の報告審査プロセスに参加しているかを取り上げました。シリーズ最終回となる今回の記事では、ノルウェーの事例を見ていきます! ◎そもそも子どもの権利条約を各国が守っているかどうかって、どのようにチェックしているの?という仕組みについては、こちらの記事をお読みください。 ノルウェーの報告審査プロセスにおける子ども参加 ノルウェーでは、多様な背景を持つ子どもたちが、2025年の報告審査に向けて国内の権利状況を評価しました。その成果は“Children’s Report to UN(国連への子どもたちのレポート)”という報告書にまとめられ、審査の前年にあたる2024年に国連子どもの権利委員会に届けられました。 この報告書では、ノルウェー政府がどのように子どもたちの権利を守っているかに加えて、政府がさらに権利を守るためには何をすべきかといった内容がわかりやすく書かれています。 報告書 “Children’s Report to UN”(2024年) どのように子どもの声を集めたの? ノルウェーの例では、13歳から18歳の7人による「子どもワーキンググループ」が作られました。ワーキンググループのメンバーは、性別・年齢・居住地・関心分野に加えて、過去の経験も参考にして選ばれました。このワーキンググループは、報告書の執筆・編集を行ったほか、ワークショップの開催や、さまざまな資料からの情報収集も行いました。 ワークショップでは、ノルウェー全土から13歳から18歳までの子どもが参加し、「子どもの権利条約」とその報告審査プロセスについて研修が行われました。また、子どもの権利が侵害される可能性がある状況と、その解決策を考えるグループワークなどが行われました。 話し合いの末、国連への報告審査に提出するための報告書の中心となるテーマがいくつか選定されました。 なお、幅広い世代の声を反映させるために、この取り組みでは4歳から5歳の幼稚園児も対象に声を集めたり、マイノリティや特定の制度を利用している子どもにも追加でヒアリングを行っています。 子どもの権利委員会にどんな意見・メッセージを届けたの? 「子どもワーキンググループ」は、ノルウェーでは以下の5つの分野で子どもの権利への侵害が起きていると報告しました。 ①ダイバーシティーとインクルージョン(人それぞれの違いを認め合い、誰も排除しないで参加できる社会をつくること) ②民主主義と参加 ③健康と適切な支援 ④教育 ⑤気候変動 具体的には、例えばそれぞれ次(つぎ)のような提言がまとめられています。 ①難民など、ノルウェーに逃れてきた子どもたちは、他のすべての子どもたちと同様に、幼稚園や学校に通う権利を持つべきです。 ②子どもを対象にしたデジタル広告は、もっと厳しく制限されるべきです。 ③心理士(カウンセラー)の助けを必要とする子どもたちは、待ち時間を短くして、すぐに相談できるようにするべきです。 ④学校を「休んでもいい理由(条件)」のルールを変える時には、子どもたちの意見も必ず聴いてください。 ⑤大人たちが気候変動や環境政策についてどうするかを決める際に、子どもたちも関与しなければなりません。 「①ダイバーシティーとインクルージョン」の分野では、同伴者(保護者)のいない難民申請中の子どもの滞在を許可する制度が不十分であることや、サーミ[注]をはじめとした先住民族・マイノリティに対するサポートが足りていないことが挙げられました。 「⑤気候変動」では、子どもが将来にわたって気候変動の影響を最も長く受け続ける存在であるにもかかわらず、子どもの声が十分に聴かれていないことに対する問題提起があり、子どもたちの政策決定への有意義な参加を求めています。こうした問題意識は、セーブ・ザ・チルドレンによる「Generation Hope」キャンペーンの内容とも似ていますね! [注]サーミ(Sámi)とは、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの北部からロシアの北部にまたがる北極圏に暮らす先住民族です。トナカイとともに、季節ごとに移動し生活する遊牧民で、独自の言語(サーミ語)、文化、伝統衣装を持っています。 また、ノルウェーの報告書の特徴は、「子どもの権利への理解そのものを向上するための取り組みを行うこと」を強く提案していることです。報告書では、より多くの子どもたちが自分たちが持つ権利への理解を深めるために、市民社会に対する支援などを強化するよう政府に訴えています。 どのように子どもたちの声が届けられたの? 2025年3月(がつ)、「子どもワーキンググループ」のメンバーたちは、大人のサポート[注]のもとスイスのジュネーブを訪れ、子どもの権利委員会が主催した「子ども会議」[1]に参加し、自分たちの意見を届けました。 [注]サポートしたのは、報告書の作成にも携わった「ノルウェー子どもの権利条約フォーラム」に関わっている人びとです。 意見を届けたあとは? 2025年5月に、子どもの権利委員会はノルウェー政府に対して子どもの権利をさらに促進するための勧告[注1]を行いました。この勧告を出すにあたり、子どもの権利委員会の専門家たちはノルウェーの子どもの権利の状況を詳しく分析しました[2]。 子どもの権利委員会は、ノルウェーが子どもの権利条約を国内法に組み入れた最初の国であり、世界で初めて子どものためのオンブズマンを設置した国として高く評価しています[注2] 。 一方で、子どもに関わる法律の制定において子どもの声がまだ十分に反映されていないことが懸念点として挙げられました。専門家たちは、子どもに関するあらゆる政策で子どもの最善の利益を保障するよう、ノルウェーに求めました。 [注1] この勧告をまとめた文書を「総括所見(そうかつしょけん)」と呼びます。 [注2] オンブズマンとは、行政が正しく仕事をしているかを監視し、市民からの苦情を受けて調査や改善を求める独立した第三者機関です。子どもオンブズマンは、子ども専門のオンブズマンです。子どもの側に立って関係者との調整を行い、必要に応じて調査や勧告をすることで問題解決を目指します。 まとめ ノルウェーでは、報告書の作成に関わった「子どもワーキンググループ」が、幅広い世代や立場の子どもたちの声を集めるために工夫したことがわかりました。また報告書からは、子どもたち自身が、自分たちが持っている権利を理解することの重要性を学ぶことができました。 このシリーズでは、「子どもの権利条約」における報告審査プロセスと、その報告審査における子ども参加について3回にわたって取り上げてきました。子どもの権利を実現するためには、子どもたち自身が権利について知り、身の回りの課題を発見して声を上げていくことが大切です。アイルランドやモンゴル、ノルウェーの事例から、子どもたちの声が国連という国際的なステージで聴かれ、政府の行動を変えるきっかけになりうることがわかりました。 この記事を読んでいる皆さんも、ぜひ「あすのコンパス」を活用して、子どもの権利についての理解を深めてみてくださいね! アドボカシー部社会啓発チーム インターン 出典 本記事は、以下の報告書をもとに執筆されています。 Norway Children’s Report to the UN Committee on the Rights of the Child 2024 [1] ChangeFactory – UN Children’s Committee held children’s meeting [2] The United Nations Office at Geneva – Experts of the Committee on the Rights of the Child Commend Norway on Child Welfare Act, Raise Questions on Proposed Increased Use of Force in Schools and Data on Children with Disabilities