2025.08.25 【日本の子どもの貧困】Vol.3 子どもの貧困の原因 教育子どもの貧困 日本には東京や大阪のような大都会や最新の技術、便利な交通機関、また美味しい食べ物もたくさんあったりと、豊かな国だと思っている人が多いのではないでしょうか。実際に、日本は2024年時点で世界第4位の経済大国です[注]。 しかし、どうして日本で9人に1人もの子どもが、いま相対的貧困の状況にあるのでしょうか?これには、さまざまな原因がありますが、ここでは特に大きな2つの理由について考えてみましょう。 [注] 国の経済力は、一定期間内にその国の中で新たに生み出された財やサービスの価値の総額によって計算されます。これをGDP:Gross Domestic Product(国内総生産)と言います。 子どもの貧困の原因①:おとなの収入が低いこと まず一つ目の理由は、子どもを育てるおとなの収入(給料)などが低いことです。 特に、母親か父親のどちらか一人が子どもを育てている「ひとり親世帯」では、この問題が深刻です。最新の調査(2021年)でも、ひとり親世帯の約44.5%が貧困の状態にあるといわれています[1]。 これは、他の世帯と比べてとても高い割合です。 「働いていないのでは?」と思うかもしれませんが、ひとり親世帯の多くは働いています。 2021年の厚生労働省の調査によると、母子家庭の就業率は86.3%、父子家庭は88.1%です[2]。それでも収入が低くなってしまうのには、次のような背景があります。 非正規雇用の問題 「非正規雇用」とは、短時間や期間が決まっている働き方のことを指します。アルバイトやパートタイム、派遣の仕事がこれにあたります。 非正規雇用のような働き方の良い点は、自分の都合に合わせて働けることです。一方で悪い点は、正規雇用に比べて、お給料が低かったり、仕事がなくなる心配がより大きいことです。また、病気になった時の保障や退職金などをもらえないことが多いです。 しかし、ひとり親家庭では例えば子育てとの両立のために、こうした働き方をしなくてはならないケースがあります。セーブ・ザ・チルドレンにこれまで寄せられてきたひとり親家庭の声の一部を紹介します [3]。 ひとり親は一人二役(働き、家事育児)をがんばっています。非正規雇用でしか働けないのですが、体を壊すほど働いても月の手取り額が14万円の時もありました。 面接で子どもが病気になったら、どうしますか?と、どこに行っても聞かれました。出来る限り、親の協力は得ていますが、急な熱とかだと休まざるを得ない。結局、どこも駄目で派遣をしています。 ジェンダー格差の問題 ジェンダー格差とは、「男だから」「女だから」という理由で、違った扱いを受けたり、同じようにがんばっても平等に評価されなかったりすることをいいます。例えば、日本では女性が男性と同じように働いているのに 、女性が受け取れるお金(お給料)が少ない会社や組織がまだまだあります。 ひとり親世帯の多くは母子世帯(母親と子どもの世帯)であるため、この格差が世帯(一つの家庭の単位)としての収入の低さにつながってしまうのです。 さらに、働けない時に、国や社会全体として助け合う仕組み[注]が、日本の場合ほかの先進国と比べてまだ十分ではない、といった指摘もあります。 [注] こういった国や社会全体で生活を支え合う仕組みを、「社会保障制度(しゃかいほしょうせいど)」と言います。 子どもの貧困の原因②:教育にお金がかかりすぎること 子どもの貧困の原因の2つ目の理由として、子育てや教育にお金がかかりすぎること、つまり教育費が高いことが言われています。 文部科学省の調査(2023年度)によると、子ども一人を育てるのにかかる学習費(塾や習い事なども含む)は、年間で公立の小学校に通う場合で約33万6,265円、公立の中学校では約54万2,475円にもなります[4]。 「義務教育って、無償じゃないの?」と思うかもしれません。 確かに義務教育では、授業料はかかりません。しかし、給食費や制服代、教材費、修学旅行費、部活にかかる費用など、学校生活を送るためには、実はそれぞれの家庭で負担しないといけない費用がたくさんあります[5]。 例えば、教育費をなんとか出すために、他の費用を削っている家庭もあります。 セーブ・ザ・チルドレンが2025年7月に公表した調査では、経済的に困難な状況にある子育て世帯のうち、米を食べられていない人の約4割が、米を食べられていない理由として「学用品や教育費など子どもに関わる費用の支払いを優先しているため」と答えていました[6]。 国による支援の必要性 日本が教育にかけるお金(公的支出)の割合は、他のOECD諸国[注]と比べると低い状況です[7]。 この割合を少しでも増やしていくことで、どのような家庭でもお金を心配することなく子どもが教育を受けられ、子どもの貧困の現状を改善していくことが期待されます。 [注] OECDとはOrganisation for Economic Co-operation and Developmentの略で、経済協力開発機構のこと。1961年に設立され、日本は1964年に加盟し、現在は38ヶ国が加盟しています。 次の記事では、「就学援助制度」や「給付金」など、教育に対する支援制度を紹介します。 このシリーズの全記事は以下のリンクから読むことができます。 【日本の子どもの貧困】Vol.1 子どもの貧困の現状【日本の子どもの貧困】Vol.2 なぜ子どもの貧困を放置してはいけないのか【日本の子どもの貧困】Vol.3 子どもの貧困の原因(今回の記事)【日本の子どもの貧困】Vol.4 国や自治体による子どもの貧困対策【日本の子どもの貧困】Vol.5 子どもの貧困と子どもの権利に関する意識調査 この記事を書いた人:アドボカシー部インターン ハギヤユカリ [1] 厚労省(2022年)「国民生活基礎調査の概況」[2] 厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告」[3] セーブ・ザ・チルドレン「約2世帯に1世帯が貧困状態。日本のひとり親家庭の貧困率が高いのはなぜ?その原因や、ひとり親家庭が利用できる制度・支援とは。」、「新型コロナウイルス感染症対応・緊急子ども給付金 ~東京都内ひとり親家庭・高校生活サポート~受給世帯の声」(2020年11月)[4] 文部科学省「令和5年度 子供の学習費調査の結果について」[5] セーブ・ザ・チルドレン「2025年経済的に困難な状況にある世帯への中高入学に関するアンケート調査:卒業と入学準備に「生活費を削る」6割超、「借入で工面」も約3割 借入金額・返済期間が前年比増、「授業料無償化」だけでは支援足りない実状明らかに」 2025.03.17[6] セーブ・ザ・チルドレン「国内最大規模 経済的に困難な子育て世帯の子ども1.4万人の「食と生活」実態調査:物価上昇で9割超が十分な食料買えず、子どもの体重減や集中力低下など健康状態懸念~公的な食料支援、現金給付などを、こども家庭庁などに提言へ~」 2025.07.24[7] 日本の教育、どうしてこんなにお金がかかるの!?~意外とかかる教育費~