2025.07.04 【学校に通えない子どもたち】Vol.2 学校に行けないのはなぜ?世界の子どもたちが直面する6つの壁 教育 前回は、世界には今も約2億7,200万人もの学校に通えない子どもたちがいる、という話をしました。 しかし、なぜ多くの子どもたちが学校に通うことができないのでしょうか? ここからは、これまでに説明したような視点以外で、子どもたちが就学できない主な理由を6点説明します。もちろん、ここで挙げる以外にも、たくさんの理由が複雑に絡み合っていますが、教育の問題を考える上での一つの見方として読んでください。 1.学校が遠い、学校に安全な設備がない… 「物理的な壁」 まず、学校に通うための物理的な障壁があります。 皆さんは、家から学校までどのくらいの時間がかかりますか? もし、学校まで何時間も歩いていかなければならなかったとしたら、毎日通い続けるのは大変ですよね。 国や地域によっては、例えば農村部の学校の数が少なく、家から遠すぎて通えないことがあります。また、トイレなどの水・衛生環境が整備されておらず、それが原因で通学をためらってしまうこともあります。 さらに、学校がバリアフリーとなっておらず、障害のある子どもが就学に困難を感じるケースもあります。 2.年齢のズレが心の壁に… 「入学の遅れ」と「留年」 開発途上国では、就学開始が遅れること、例えば、小学1年生が6歳で始まる国で、7歳以上になってから初めて1年生に入学してくることは珍しいことではありません。 また、成績や出席日数など一定の基準を満たさないと、小学校や中学校などでも、留年となる国も多くあります。 こうして、周りの生徒と年齢差が大きくなるにつれ、心理的な障壁が生まれ、中途退学につながってしまうケースがあります。 3.お金がない、働く必要がある… 「経済的な壁」 「授業料が無償なら、みんな学校に通えるんじゃないの?」と思うかもしれません。 確かに、多くの開発途上国で授業料は無料になっています。しかし、それ以外にも、制服代、教科書代、文房具代、通学費など、学校に通うためには色々なお金がかかります。 これらの費用を家庭が負担しきれず、子どもを学校に通わせることをあきらめてしまう場合があります。 南スーダンのボルで暮らす一家。ひどい洪水や、武装グループから避難した経験があります。父親を亡くし、母親は仕事がないため、13歳のアチョルさん(写真左奥)はセーブ・ザ・チルドレンから教育費の支援を受けています。 教育費の問題は、日本でも共通する課題です[1]。 また、子どもが家庭内外の貴重な労働力とみなされている場合が多くあり、学校に行かせてもらえないことがあります[2]。 4.学校に魅力がない… 「教育の質や価値への疑問」 「学校で教わる内容が、自分の生活の改善に直接役立たない」 「せっかく学校に行かせても、あまり意味がない」 もし子どもや保護者がそう感じたら、学校から足が遠のいてしまうでしょう。 教師の不足や給与の安さ、教員養成制度の不十分さなどから、学校に行っても教師がいなかったり、授業の内容の質が高くなかったりする場合があります。 また、例えば農家が多いような国で、地域の農業や産業など、日々の生活と直結した内容を学べる授業がないと、学校に行くことの価値が感じづらくなることもあります。 さらに、難民のように、自国での暴力や紛争などによって、一時的にほかの国に逃れて避難している子どもたちもいます。難民の子どもたちも、避難した先で学び続けられるようにさまざまなサポートや工夫がなされているケースもありますが、そもそも母語でない言語で教育が提供されている場合もあります。 就学年齢の人口が多いサハラ以南アフリカなどの地域では、クラスの生徒数が、適切な人数の基準の何倍にもなっていることがあります。また人数が多いために、午前や午後といったようなシフト制でクラスが分かれているところもあり、短い時間しか教育を受けられないことも多くあります。 このように、学校で提供される教育の質や、適切な環境が整っていないなどの理由により、学校に行かないという決断につながることもあります。 5.紛争や自然災害で日常が奪われる… 「緊急事態の壁」 日本でも、地震や台風などの自然災害で、一時的に学校が休校になることがありますね。 一方で世界には、紛争や内戦、さらにそこに大きな自然災害が頻繁に起こり、何年も続く「長引く危機」と呼ばれる状況になってしまう国や地域があります。 ウクライナ東部・キーウ郊外のブロヴァルィーの町の学校で攻撃により焼かれたスクールバス 紛争や自然災害などの緊急事態や、こうした状況が続く「長引く危機」の中では、社会制度や学校などのインフラが崩壊したり、元々住んでいた国や地域から避難しなければならなくなるなどで、子どもたちは学び続けることが難しくなってしまいます。 6.パンデミックや気候危機が教育を止める… 「環境要因の壁」 記憶に新しい新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な大流行。 この感染症の大流行(パンデミック)は2020年頃から始まり、教育に大きな影響を与えました。一時期、世界のほとんどの学校が休校となり、多くの子どもたちが長期間学校に通えなくなりました。 その際に、多くの国では対面教育の代わりに、オンラインで遠隔教育を提供していましたが、全世界の子どもの40%はインターネットへのアクセスがなく、教育を継続できなかった子どもたちもたくさんいました。 パンデミックが落ち着いて学校が再開したとしても、このように一度学校教育から切り離されてしまうと、なかなか復学しづらくなってしまうことが多くあります 。 また、「5.紛争や自然災害で日常が奪われる… 『緊急事態の壁』」でも触れた自然災害について、近年気候変動によってもたらされている異常気象により、子どもたちの学びが中断させられています。 「夏が暑すぎて、外で遊べない。学校の⾏事や授業も中⽌になったことがある」 「毎年どこかの地域で、⼤⾬になる。学校も水浸しで数週間休校になった」 「体育館が数か月避難所になって授業で使えなくなった」など、災害リスクは日本で暮らす私たちにとってもさらに⾝近なものになっています。 また、国によっては⼲ばつによる⾷料危機の深刻化や、水害(すいがい)による感染症の流行(りゅうこう)なども⽣じています。 ケニアで大雨による洪水後、水浸しの中学校に向かう子どもたち まとめ 今回は、子どもたちが学校に通えない6つの理由を見てきました。 これらの理由は、一つだけでなく、いくつもが複雑に絡み合って、子どもたちから学ぶ機会を奪っています。 これらの現実を知って、皆さんは何を感じましたか? 次回は最終回、「教育が受けられないことで起こる問題とは?」をテーマに、学校で学べないことが、子ども自身や社会全体にどのような影響を与えるのかを一緒に考えていきましょう。 この記事を書いた人:アドボカシー部インターン ハギヤユカリ この記事は、セーブ・ザ・チルドレン「学校に通えない子どもたちは世界にどのくらいいるでしょうか?その理由と問題について紹介します」のコラムを基に、最新情報を加え、子ども・ユース向けに解説したものです。 [1] 日本の教育、どうしてこんなにお金がかかるの!?~意外とかかる教育費~[2] 黒田一雄、横関祐見子(2005)国際教育開発論 理論と実践, 有斐閣