2025.06.30 Vol.3 【学校保護宣言を知ろう】 学校保護宣言による前向きな変化 緊急・人道支援教育子どもの保護 学校・教育を攻撃や軍事利用から守る*ためにつくられた「学校保護宣言」。 この宣言に賛同することで、どのような前向きな変化があるのでしょうか。 「学校保護宣言」に賛同した以下の5つの国で実際に変わったことをみていきましょう! *紛争下において、学校が攻撃される理由の1つとして、学校の軍事利用があげられます。学校を軍事利用してしまうことで、それが「軍事的なターゲット」としてみなされ、より攻撃に遭いやすくなってしまうのです。 学校保護宣言に賛同した5つの国での変化 ① 中央アフリカ共和国 中央アフリカ共和国の場所 中央アフリカ共和国は2015年6月(がつ)に「学校保護宣言」に賛同しました。 中央アフリカ共和国には、平和を守るために国連がつくった「MINUSCA(ミヌスカ)*」というチームがあります。宣言に賛同したのち、MINUSCAは「紛争当事者による学校や大学の使用は認められない」と明言しました[1]。 その結果、2016年にMINUSCAは武器を持った軍や武装グループが占拠していた国内の学校5校を、平和的に解放することができました。 また、2020年には中央アフリカ共和国で「子ども保護法」が制定されました。この法律によって、学校を攻撃したり占拠したりすることが犯罪となりました[2]。これは、アフリカにおいて学校の軍事利用を禁止した初めての法律です。 その成果もあり、2022年から2023年にかけて、同国における教育施設の軍事利用が減少していることも報告されています。 *正式には「国連中央アフリカ共和国多面的統合安定化ミッション」と言います。また、MINUSCAはUnited Nations Multidimensional Integrated Stabilization Mission in the Central African Republicの略です。 ② ナイジェリア ナイジェリアの場所 ナイジェリアは2015年5月(がつ)に「学校保護宣言」に賛同した、最初の国のひとつです。 2021年には「安全・安心で暴力のない学校のための国家方針」を発表し、宣言の内容を取り入れました[3]。 同じ年には、国防省と教育関連のチームが共同でガイドラインやマニュアルをつくり、女性や困難な立場に置かれた子どもたちへの配慮も含めました[4]。 さらに2022年には、学校を攻撃から守るためのさまざまな活動に資金を提供する「安全な学校のための国家財政計画(2023〜2026年)」を始めました[5]。 この取り組みの一環として、ナイジェリア国内の学校の安全を守るための施設である「全国安全学校対応調整センター」も設立されました[6]。 ナイジェリアが「学校保護宣言」に賛同した背景には、2010年代にテロリスト集団であるボコ・ハラムの影響があったと言われています。2014年、276人の女子生徒がボコ・ハラムによって誘拐されました。 この事件を受け、世界中で「#BringBackOurGirls(少女たちを返して)」というキャンペーンが広がり、教育を守るためにもっと強力な対策が必要だという声が高まりました。 ナイジェリアはその後、「学校保護宣言」への取り組みをリードする国の一つになったのです[7]。 紛争によりカメルーンから避難し、ナイジェリアのクロスリバー州で学校に通うミネットさん(13歳) ③ イギリス イギリスの場所 イギリスは2018年に「学校保護宣言」に賛同しました。 宣言に賛同したのち、イギリスは「学校保護宣言」を実行するために、軍の方針を見直し、その内容をアップデートしました。具体的には、「防衛における人間の安全保障」という文書において、「『学校保護宣言』に沿って、やむを得ない場合を除いて学校を利用してはならない」と明記されました[8]。 これは戦時における学校の軍事利用を完全に排除するものではありませんが、紛争下においても学校や教育、そしてそこで学ぶ子どもたちを守るための大切なファースト・ステップです。 ④ ウクライナ ウクライナの場所 ウクライナは2019年に「学校保護宣言」に賛同しました。 2022年2月(がつ)に、ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まり、ウクライナ危機が勃発しました。 しかし、実はそれ以前から、両国の緊張関係は続いていました。 ウクライナでは2014年以降、750以上の教育施設が攻撃されています[9]。そのため、ウクライナは生徒や教育関係者、学校を戦争の影響から守る必要があると感じていました。こうして、2019年にウクライナは「学校保護宣言」の100番目の賛同国になったのです。 2021年には、宣言の実施に向けた行動計画をつくり、2024年にはその対象を国全体に広げました。市民団体と協力して、軍の関係者向けに宣言とガイドラインの研修も行っています。 また、戦闘が続く中でも子どもたちの学びを止めないために、オンライン授業を制度化したり、学校に避難場所をつくったり、地雷の除去や安全教育などさまざまな取り組みを進めています。 教育施設への攻撃についてのデータは、ウクライナ教育省の特設ウェブサイトで公開されています[10]。 「学校保護宣言」への賛同と、そのガイドラインに基づく研修や準備がなければ、今より学校や教育への被害はもっと大きかったと考えられます。 ウクライナ・ミコライウ州にて、オンライン授業を受けるアントンさん(11歳)同地域は頻繁な空爆により学校はすべて閉鎖され、授業はリモートで行われている ⑤ コロンビア コロンビアの場所 コロンビアは2022年に「学校保護宣言」に賛同しました。 これを受けて政府は、宣言を実施するための行動計画(2022年〜26年)を作りました。この計画では、治安部隊や軍の関係者、教育関係者、さらには武装グループにも、「学校保護宣言」とその内容である「ガイドライン」について知ってもらうための取り組みが行われています。 また、関係する省庁や機関からなる委員会も設置し、この計画がしっかり実行されているかを監視しています。 さらに、2024年2月(がつ)には、コロンビアの憲法裁判所が治安を守る部隊に対して、「子どもたちを市民軍事活動に巻きこむことはやめるべきだ」と命じました。特に、そうした活動を学校の中で行うことを禁じました。 裁判所は、これらの活動は子どもたちを危険にさらし、子どもたちのこころと体の安全、そして武力紛争に関与しない権利を奪ってしまうと判断したのです[11]。 「学校保護宣言」に賛同するのはなぜ大事? 5つの国の例で見たように、「学校保護宣言」に賛同することで、以下のような変化が期待できます。 「学校保護宣言」に沿って軍が方針を更新したり、政府が学校の軍事利用の禁止を法律で定めたりすること 教育や外交、防衛に関わる省庁が連携を強め、紛争下でも子どもの教育を守ること 実際に軍や武装グループによる教育への攻撃を減らし、学校から退去させること 「学校保護宣言」の前向きな効果を評価し、すでに121ヶ国(かこく)が賛同を表明しています。しかし、日本政府はまだ賛同を表明していません。 日本政府も「学校保護宣言」に賛同してくれるよう働きかけるため、いま、市民のみなさんから署名を集めています。下記の【「学校保護宣言」キャンペーンに参加する】のボタンから、あなたの署名・意見を寄せてください。 「学校保護宣言」キャンペーンに参加する この記事を書いた人:アドボカシー部インターン 吉田莉々(りり) この記事は、教育を攻撃から守る世界連合(GCPEA)のPractical Impact of the Safe Schools Declaration Fact Sheet, Second Editionを参考に書いています。 [1] United Nations Multidimensional Integrated Stabilization Mission in the Central African Republic (MINUSCA), Directive on the Protection of Schools and Universities Against Military Use, MINUSCA/OSRSG/046/2015, December 24, 2015.[2] Child Protection Code for the Central African Republic, Law Number 20,016, June 15, 2020, art. 180.[3] Nigeria Federal Ministry of Education, National Policy on Safety, Security and Violence-Free Schools in Nigeria, 2021.[4] Nigeria Ministry of Defence, Safe Schools Declaration (SSD) Trainer’s Guide for the Training of Nigerian Security Agencies and Human Rights Organisations, September 2021.[5] Nigeria National Ministry of Finance, Budget, and National Planning, National Plan on Financing Safe Schools (2023-2026), December 2022.[6] Nigeria National Safe School Response Coordination Centre, https://nssrcc.gov.ng/.[7] Global Coalition to Protect Education from Attack, Nigeria: A Case Study on Implementing the Safe Schools Declaration, May 2025[8] United Kingdom Ministry of Defence, Human Security in Defence, JSP 985, v. 2.0, June 2024. This is an update of the December 2021 version, which superseded Human Security in Military Operations, Part 1: Directive, JSP 1325, v. 1.0, January 2019.[9] Save the Children, Ukraine joins the global effort against attacks on education, November 2019.[10] Save Schools Ukraine, https://saveschools.in.ua[11] Constitutional Court of Colombia, Sentencia T-005 de 2024, January 22, 2024.