2025.03.18 Vol.2 【気候変動】気候危機と子どもの権利の関係 防災・気候変動 気候危機は、環境の問題だけではありません。 気候危機によって近年増加している熱波、農作物の不作、干ばつ、森林火災そして大雨や河川の氾濫は、子どもたちの健康、教育、身体や心を成長させていけるよう、十分な水準の生活を送る権利などを今も脅かしています。 気候危機は子どもの権利条約で保障されている権利に、どのような影響を及ぼしているのでしょうか? 子どもの権利条約第27条「十分な水準の生活を送る権利」と、第28条「教育を受ける権利」の観点から少し考えてみましょう。 十分な水準の生活を送る権利(第27条) 気候危機による自然災害が増えると、豪雨や台風・ハリケーンによって家が物理的に破壊されてしまうことが発生しています。その結果、子どもたちは家やシェルターを失うような事態が起きています。 これは「住」という観点から、子どもの権利条約で保障されている第27条 「十分な生活水準の保障」が守られていない状況だということができます。また、家を失った子どもたちは、精神的に不安定な状況に陥りやすくなってしまいます。 さらに、「食」という観点からはどうでしょうか。熱波や干ばつにより、農作物が被害を受けることで食料不足が生じ、その結果、栄養不良になるなど、子どもたちの健康に悪い影響を及ぼします。これも、第27条の「十分な水準の生活を送る権利」が守られていない状態だと言えるでしょう。 子どもの権利条約第27条:身体や心を成長させていけるよう、十分な水準の生活を送る権利があります。 教育を受ける権利(第28条) 教育は、子どもたちの未来を切り開くうえで不可欠なものですが、気候危機によってその機会も奪われ始めています。 自然災害や極端な気象によって学校が閉鎖されることが増え、子どもたちは教育を受ける機会を失い、または地球温暖化による気温上昇によって、休校や学校を休まざるを得ないことも増えています。 子どもの権利条約第28条:すべての子どもは、平等にかつ無償で教育にアクセスできる権利があります。学校の規律は、子どもたちの尊厳が守られるものでなければなりません。 (くわしくは、「Vol.1 【気候変動】 未来の天気はどうなる?気候危機が世界の子どもたちに与える影響」も合わせて読んでください。) 例えば、世界で最も気候危機の影響を受けている国の一つであるインドでは、豪雨で学校が浸水したり、大きな地滑りを引き起こしたりしています。インドでは、2018年に1,613もの学校がこのような影響を受けたと報告されています [2]。 気候危機が子どもたちの教育を受ける権利に与える影響について、モンゴルの例も見てみましょう。 モンゴルでは市民の90%が「ゾド」という雪害の影響を受けています。ゾドは長引く夏の干ばつとそれに続く厳しい冬によって引き起こされ、気候変動によって近年その厳しさが増していると考えられています。 モンゴルの人口の3分の1が牧畜を中心とした遊牧生活を行っているため、ゾドの影響はモンゴルの人々の生計に非常に厳しい打撃を与えています。 ゾドによって家計が苦しくなると、生き残った家畜の世話をするために学校を休み、働かざるを得なくなることがあります。 (くわしくはこちら:【モンゴル・寒雪害「ゾド」】 遊牧民の生活が危機に直面―家畜大量死の季節が始まる)。 一方で、子どもたちには、自分たちの未来に関わる問題について、意見を述べる権利があります。これは子どもの権利条約第12条の「意見を表明する権利」で保障されています。 最近では、スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんのように、気候危機への対策を求めて声を上げる若者も増えています。 彼女の活動は、世界中のリーダーたちに影響を与え、多くの国々が気候危機対策を強化するきっかけとなりました。 気候変動と不平等 このまま行動しなければ、世界中で数億人の子どもたちが過酷な天候による飢えに直面したり、健康を害され、学習機会を失い、また住んでいる場所からも離れなければならないなど、状況がさらに深刻になってしまいます。 そしてこれらの問題は互いに結びつき、不平等が拡大していきます。 セーブ・ザ・チルドレンとブリュッセル自由大学が2022年に行った調査では、世界で推定7億7,400万人の子どもたち(世界の子どもの3人に1人)が、「貧困」と「気候危機」という2つの影響を受けながら生活していることが分かりました[5]。 3人に1人の世界の子どもが高い気候リスクと深刻な貧困の二重の危機に直面。貧困の状態にあり、気候危機の影響を受けている子どもの人数が最も多い国はインド、ナイジェリア、エチオピアで、あわせて2億2,300万人にのぼる[3] しかし、子どもを含む一般市民への環境教育や啓発活動などを通じて、人々が環境に優しい選択をしたり、また環境に良い政策を政府に求めていくことで、今後も子どもたちがきれいな空気と水などにアクセスできたり、健康に育つために不可欠であるクリーンな環境を守ることができます。 このシリーズでは、気候危機が私たちの生活に与える影響について学び、気候危機の影響を減らすために私たちに出来ることを考えていきます。 次は、各国の事例をよりくわしく紹介していきます。 セーブ・ザ・チルドレンのGeneration Hope(ジェネレーション・ホープ)キャンペーンでは、子どもたちの未来のために世界の気候と不平等の危機を終わらせるように呼びかけています。もっと知りたい人はこちら:「ジェネレーションホープ:世界の気候と不平等の危機を終わらせる24億の理由(Generation Hope: 2.4 billion reasons to end the global climate and inequality crisis)」 この記事を書いた人:アドボカシー部インターン ハギヤユカリ [1] Harvard T.H. Chan School of Public Health. (n.d.). Children’s health and climate change. [2] Germanwatch. (2019). Global Climate Risk Index 2019: Who suffers most from extreme weather events? [3] セーブ・ザ・チルドレン 「【報告書】 3人に1人の子どもが、高い気候リスクと深刻な貧困の二重の危機に直面している」 2022.11.9