2025.10.16 Vol.4 【気候変動】マダガスカルの干ばつやサイクロンによる食料危機:気候変動がもたらす食への打撃 防災・気候変動 アフリカの南東沖に浮かぶ、マダガスカルという島国を知っていますか? キツネザルに代表されるユニークな動物たちや、バオバブの木が立ち並ぶ壮大な自然で知られる、とても美しい国です。 しかし、実はマダガスカルは気候変動の影響を世界で最も受けやすい国のひとつです[1]。紛争ではなく、自然災害や、気候の急激な変化が引き起こす「食料危機」が、人々の暮らし、特に子どもたちの未来を脅かしています。 今回は気候変動がマダガスカルに与えている影響を見てみましょう。 雨が降らない南部、巨大な嵐に襲われる南東部 マダガスカルは、気候変動の影響で、これまで何度も深刻な干ばつに直面してきました。干ばつとは、長い間雨が降らず、土地がカラカラに乾いてしまうことです。 この20年間だけでも、大きな干ばつが5回も発生しています。2021年には過去40年で最悪といわれる記録的な干ばつが国を襲い、その影響から今もなお、人々は苦しんでいます。マダガスカル南部では、干ばつによって畑は砂におおわれ、作物が育てられなくなっています。10年ほど前まではイモや豆を食べていた人々も、今ではサボテンの実なども食料にする必要がある、という状況です[2]。 マダガスカルでは多くの人が農業で生活をしているため、最近のように天候が不安定になると、食料や生活するためのお金が手に入りづらくなります。お米やトウモロコシといった主食となる作物を育てることが難しくなる結果、食料が手に入りにくくなる「食料不安」や、十分な栄養がとれない「栄養不良」が深刻化します。特に、干ばつによって女性が農業に従事する時間が減り、その結果、収入減につながってしまう研究結果もあります[3]。 一方で、南東部は水が豊かで、米作りが盛んな地域です。しかし、この地域は「サイクロン」と呼ばれる巨大な嵐の被害を受けています。近年はその威力や数が増しており、2022年には4ヶ月の間に5つものサイクロンが直撃し、大切に育ててきた田畑が壊滅的な被害を受けました[4]。 食料の確保が難しくなることで、子どもたちが栄養不良に陥る危険性が高まります。 南東部の沿岸が多くのサイクロンの上陸地点となる一方で、その強力な嵐の影響は、遠く離れた北部地域にまで及ぶことも少なくありません。サイクロンは、その中心から何百キロも離れた場所まで雨雲が広がり、大規模な洪水を引き起こします[5]。 マダガスカル北部でサイクロン・ジュードにより高校が浸水 食料危機が子どもたちにおよぼす影響 このように、ひとつの国で干ばつやサイクロン、洪水といったさまざまな気候災害が、農業に大きな打撃を与え、国全体で深刻な「食料危機」を引き起こしています。国の人口の約4割にあたる210万もの人々が、食べるものに困っていると報告されています[2]。そして、この危機で最も大きな打撃を受けるのは、子どもたちです。 十分な食事がとれないことで、多くの子どもたちが「栄養不良」に陥っています。栄養不良は、ただお腹が空くだけの問題ではありません。体の成長に必要な栄養が足りないことで、病気への抵抗力が弱まったり、脳や体の発達が遅れたりする可能性があります。マダガスカルの南部では5才未満の子どもたちのうち、少なくとも50万人が「急性栄養不良」という、急に体が弱ってしまう危険な状態になっています。その中でも11万人は、命の危険もあるほど特に深刻な状態です[6]。 さらに問題は栄養不良だけにとどまりません。食べ物を手に入れるために学校へ行けなくなったり、家計を助けるために働かざるを得ない「児童労働」や、まだ幼いうちに結婚させられる「早婚(児童婚)」といった深刻な問題にもつながっているのです[7]。 希望を未来へ:危機に立ち向かう人々 このような厳しい状況の中、マダガスカルの人々や支援団体は、未来への希望を繋ぐために行動を起こしています。国連やセーブ・ザ・チルドレンのような支援団体も、地域の人々と協力し、気候変動に適応するためのさまざまな支援を行っています。例えば、 栄養改善と早期発見 地域で採れる食材を使った栄養価の高い食事の作り方を教えています。また、子どもの腕の周囲(太さ)を測るMUACテープ[注]を使って、栄養不良で急いで治療が必要な子どもを見つけ、診察したり、栄養改善につなげる取り組みを進めています[8]。 農業技術の革新 セーブ・ザ・チルドレンでは、農家のリーダーを育成して、気候変動に適応した作物を選んだり、農業技術の支援や研修などを行っています[9]。 災害に強い地域づくり 「アグレフォレストリー」という自然災害に強い農業に取り組んでいます。これは農業と林業を組み合わせたもので、栄養価の高い果樹(ライチ、オレンジ、マンゴーなど)と、森林の再生や土砂災害を防ぐのに役立つ木々(ユーカリやアカシアなど)の植林を行っています[9]。 早期警報システムの導入 国連は、サイクロンや干ばつが来ることを事前に知らせる「早期警報システム」を2027年までにマダガスカルのすべての人々が利用できるようにする計画を進めています[10]。 [注] MUACテープとは、「命のうでわ」とも呼ばれています。緑・黄・赤の3色がついたうでわで、栄養状態を測ります。緑色は腕の周囲が12.5cm以上で適切な栄養状態を表します。黄色は、腕の周囲が11.5cm-12.4cmで中くらいの栄養不良の状態を示します。赤色になると、11.5cm未満の重度な栄養不良の状態を表します。赤色は命の危険があり、すぐに集中的な治療が必要である状態です(出典:国境なき医師団『【試してみよう!】栄養失調を見分ける「命のうでわ」』)。 ソマリアのアブディさん。深刻な栄養不良の状態にあり、セーブ・ザ・チルドレンの保健センターで回復するための治療を受けています。医療スタッフは、MUACテープを腕に巻いた時の色、つまり腕の太さで、子どもたちの栄養状態を測っています。 セーブ・ザ・チルドレンによる子ども・若者の権利を守るためのトレーニングプログラムに参加したオノレさん。マダガスカル北部のパチョリ畑にて アドボカシー部インターン ハギヤユカリ [1] GLOBAL CLIMATE RISK INDEX 2020[2] UN News, Madagascar: ‘World cannot look away’ as 1.3 million face severe hungerセーブ・ザ・チルドレン、【マダガスカル】気候変動と食料危機、2022.12.21[3] Broccolini, Chiara; Coelho, Bernardo; Fruttero, Anna; Gninafon, Horace Mahugnon Akim; Halim, Daniel; Muller, Noel. “Gendered Impacts of Climate Change : Evidence from Weather Shocks (English)”. World Bank Policy Research working paper 10442, May 2023.[4] セーブ・ザ・チルドレン、[マダガスカル]気候変動と食料危機、2022.12.21[5] Acaps Report, Madagascar Cyclone exposure and vulnerabilities[6] Unicef, 「マダガスカル子どもの急性栄養不良4倍に増加」、2021.07.26[7] WFP、「南部アフリカにおける記録的に深刻なエルニーニョによる干ばつに対応するための緊急行動の要請」、2024.06.05朝日with Planet、「母体と新たな命を守る マダガスカル、気候変動と人道危機の中で」、2025.04.11[8] セーブ・ザ・チルドレン、「【マダガスカル 栄養改善支援編】事業開始から1年、地域の力で取り組む子どもの栄養支援」、2025.07.10[9] セーブ・ザ・チルドレン、「【マダガスカル 生計向上支援編】事業開始から1年、 子どもの栄養不良の予防につながる生計手段の確立」、2025.07.10[10] ITU, Early Warnings For All Initiative