2025.10.07 私や友だちのこころの健康を守るためのヒント 子どもの保護 こころの健康ってなんだろう? 皆さんは、「こころの健康」について考えたことはありますか? 世界保健機関(WHO)憲章では、健康についてこのように説明しています。 「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」(日本WHO協会訳)[1] 健康には、こころの健康も含まれています。 こころの健康は、人の健康を支える大切な土台で、友だちや家族、そして社会とのつながりにも関わっています[2]。 こころが元気だと、遊んだり、勉強したり、運動したり、ご飯をしっかり食べたり、ぐっすり眠ったりして、毎日をいきいきと過ごすことができます。 ストレスってなに? でも、学校や家でいろんなことがあると、こころが疲れてしまうこともあります。例えば、 友だちとうまくいかない テストがプレッシャーになる 大切な人との別れ など こういう出来事を「ストレッサー」と言います[注]。 [注] ストレッサー(stressor)は、ストレスの原因となる「刺激」や「要因」のことです。 ストレッサーに出会うと、こころや体に変化が出てきます。これを「ストレス反応」といいます。例えば、 好きだったことが楽しくなくなる 勉強や部活に集中できない 食欲がなくなる、眠れない 頭やお腹が痛くなる、イライラする 人と話したくなくなる など こうした反応は、誰にでも起こる自然なことです。 ストレスへの対処法―「コーピング」 ストレスを感じたとき、自分なりに工夫して乗り越えることを「コーピング」といいます[注]。例えば、友だちや家族に悩みを話す、身体を動かす、好きな音楽を聴く、歌う、本を読むなど。こうしたことが、気持ちの切りかえにつながります。 [注] コーピングは、「ストレスに対処するための行動」を意味します。英語では「coping」と表記され、「問題に対処する、対応する」という意味の「cope」から来ています。 「見る、聞く、つなぐ」でこころの健康を守ろう 自分や友だちのこころの健康を守るために大切な3つのポイントがあります[3]。 見る 友だちの様子がいつもと違うことに気づく 困ったときに助けてくれる大人が近くにいるか確認する 自分に余裕がないときは、周りを見るのがむずかしいこともあります。それに気づくことも大切です。 まずは自分のこころの健康を大事にすることが、友だちを助けるための第一歩です。 聞く 気づいたら、声をかけてみる 話してくれたら、安心できるように聞く 「どうしたの?」「何か困ってる?」など、短い言葉で声をかけるだけでも相手の安心につながることがあります。 すぐに話してくれなくても、「話したくなったらいつでも聞くよ」と伝えるだけでも力になります。 話を聞くときは… 相手の話に集中する うなずいたり、「大変だったね」と共感する 無理に質問したり、話を急かせない 相手が黙ってしまったときは、そばにいるだけでも安心につながります。 つなぐ 危ないと感じたら、すぐに大人に伝える 自分だけで悩まず、困ったら大人に相談する もし友だちが「誰にも言わないでね」と言っても、命に関わるようなことやとても心配なことなら、大人に相談することが大切です。 そんな時、友だちにどう伝えたらいいでしょう。例えば… 「それはすごく大変なことだから、大人に相談しよう」 無理をせず、「できること・できないこと」を正直に伝えましょう。特に、命にかかわるような大きなできごとに出会ったときは、「自分では対処しきれない」と伝え、信頼できる大人につなぐことがとても重要です。例えば、こんな伝え方ができます。 「ごめんね、この秘密は大きすぎて、私には守れないから、助けてくれる大人に相談するね」 皆さんの周りに、相談できる大人はいますか? 例えば、家族、親戚、学校の先生、スクールカウンセラー、近所の人、習い事の先生などかもしれません。 「この人なら安心して話せるかも」と思える大人を、ぜひ考えてみてください。 もし、引っ越しや進学などで新しい場所に行ったら、また新しく信頼できる大人を探すことになるかもしれません。そんな時も、「困った時に相談できる人がいるかどうか」を意識してみましょう。 まずは、自分自身を大切にすることから 友だちを支えるには、まず自分自身を大事にすることが大切です。すべての問題を一人で解決することはできないので、無理をせず、「できること・できないこと」を伝え、大人に相談しましょう。 ポジティブな考え方を心がけ、毎日を楽しく過ごすこともセルフケアのひとつです[注]。 ときどき、思い切り笑ったり、好きなことを楽しんだりする時間をつくってみましょう。体を動かしたり、自然の中でゆっくり過ごしたりすると、こころがスーッと落ち着いてくることがあります。 しっかり眠ることや、健康的な食事をすることは、こころと体の元気につながります。 また、友だちや家族と過ごす時間を大切にし、つながりを感じることもこころの支えになります。 困ったときは、一人で悩まないで、信頼できる人に話してみてください。 それが、自分のこころの健康を守りながら、友だちを支える大切な方法です[4]。 [注] セルフケアとは、私たち自身のこころの不調を予防するための方法や工夫です。 あなたの気持ちを聞いてくれる場所 困った時に相談できる、公的な電話やSNSの窓口もあります。名前を出さずに、匿名でも相談することができます。 -電話窓口一覧(厚生労働省) 悩みや年代によって選べる電話相談窓口があります。 -こころの健康相談(各都道府県) 地域の相談窓口で話せます。 -子供のSOSの相談窓口(文部科学省) 24時間の電話相談(0120-0-78310:通話無料)、SNS相談、地域の窓口相談など、自分が希望する相談方法を選ぶことができます。 いじめ問題から家族関係まで、さまざまな子どものSOSに対応しています。保護者が代わりに相談することもできます。 -こどもの人権110番(法務省) 電話(0120-007-110:通話無料・平日8:30-17:15)やLINE、メールでも相談できます。 学校や家でいやなことをされる、先生や保護者には話しにくいけど、このままではどうしていいか分からないなど、このような悩みがあったら迷わず電話してください。 その他にも、家や学校のこと、暴力・性暴力、こころと体の健康などについて、電話のほかメールやSNS・チャットで相談できる相談窓口はこちら(2025年8月時点) 子どもの権利とのつながり こうしたサポートは、実は「子どもの権利」とも深く関わっています。 子どもの権利条約第39条には、「あらゆる暴力の犠牲・対象となった子どもは、身体と心を回復させ、社会に復帰し、尊厳を取り戻すための支援を受ける権利がある」と書かれています。 子どもたちのこころの健康が守られることは、個人の優しさや思いやりにとどまらず、国際条約によってすべての子どもが生まれながらに持つべき「権利」として明確に保障されています。 日本は、子どもの権利条約を批准(ひじゅん)し、条約に定められた子どもの権利を守ると約束しました。政府は、すべての子どもたちのこころの健康が守られるよう、さまざまな対策を考えたり、サポートを提供する義務があるのです。 子どもの権利第39条:あらゆる暴力の犠牲・対象となった子どもは、身体と心を回復させ、社会に復帰し、尊厳を取り戻すための支援を受ける権利があります 最後に たとえすぐに問題が解決しなくても、「つらい気持ちに気づいてもらえた」、「誰かが話を聞いてくれた」というだけで、こころが少し軽くなることがあります。 それは、「ひとりじゃない」と感じられることが、私たちのこころにとって、とても大切だからです。 人とつながること、誰かに話すこと、話を聞いてもらうことは、こころの健康を守る力になります。 だからこそ、「見る・聞く・つなぐ」の3つのポイントを大切にしてほしいと思います。 自分や友だちの変化に気づく(見る) 声をかけて、話を聞く 困ったときには、信頼できる大人に相談する(つなぐ) 自分や友だちのこころの健康を守るために、日々の生活の中でこの3つのポイントを少しずつ意識してみてください。 <参考>大人向けにくわしく書いた記事はこちら:【子どもの保護コラム】災害や紛争の影響が誰にでも起こりえるいま、子どものこころの健康を守るには この記事を書いた人:MHPSS(精神保健・心理社会的支援) エキスパート 赤坂美幸、海外事業部 プログラムコーディネーター 奥村絵美 [1] 日本WHO協会「健康の定義」(2025年10月1日閲覧)[2] 厚生労働省「令和6年版 厚生労働白書―こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に―」[3] Save the Children「I Support My Friends 理論と実践の手引き」[4] 同上出典:セーブ・ザ・チルドレン&東京大学教養学部付属教養教育高度化機構(作成中)「こころの健康のためのヒント〜見る、聞く、つなぐ〜」