2025.09.17 ガザ地区における「飢饉(ききん)」の発生に関する声明 ニュース 背景 1948年にパレスチナの土地に建国されたイスラエルによって、そこに住んでいたパレスチナ人は土地を追われ、70万人がパレスチナ難民になりました。イスラエル建国に伴って半分以下になってしまったパレスチナの土地(ヨルダン川西岸地区・ガザ地区・東エルサレム)に残った人たちも、イスラエルによる占領によって何十年も苦しい生活を強いられています。 その中でもガザ地区は、2007年にイスラエルによって完全に封鎖され、人々が外に出ることは許されていません。 そして、逃げられない人に対して、2008・2009年、2012年、2014年、2021年など、大規模な空爆が行われ、何千人もの子どもや市民が殺されています。 そうした背景の中で、2023年10月7日、パレスチナの武装グループがイスラエルに侵入して武力攻撃を行い、約1,200人が死亡し、約250人が人質に取られました。これに対し、イスラエルは同日中にガザ地区への攻撃を開始し、これまでに6万4千人以上のガザの市民(うち子どもは2万人)が犠牲となっています[1]。 パレスチナ全体の地図。ガザ地区とヨルダン川西岸地区(東エルサレムを含む)に分かれています(出典:セーブ・ザ・チルドレン) ガザで何が起きているの? 今回のガザ攻撃は2年近く続いており、ガザ地区では多くの人が空爆などによって殺されているだけでなく、生きるために必要最低限の物資を運び入れることさえも制限され、人々は食べ物や飲み水がなく苦しんでいます。 そして8月22日には、国連はパレスチナのガザ地区で「飢饉(ききん)」が起こっていると発表しました[注]。 飢饉とは、食べ物が不足し、多くの人が餓死(がし)してしまう危険な状態のことです。 この発表によると、ガザ地区では、9月末までに約64万もの人が飢饉の状態になり、来年の6月までに13万人以上の子どもが急激な栄養不良で体調を悪くする、あるいは命を落とすと予想されています。 [注] 食料がある状態から飢饉に至るまでの5つの段階を測る世界標準のツールを、「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」と言います。これは、食料不安の状況を分析し、適切な支援を提供するための世界共通の基準です[2]。 飢饉って何? 飢饉は、食べ物がない飢餓(きが)の状態の中で最も深刻なレベルです。 国連の定義によれば、地域において少なくとも20%の世帯が極端な食料不足に直面し、少なくとも30%の子どもが急性栄養不良状態にあり、毎日1万人あたり2人が飢餓や栄養不良と病気の相互作用により命を落とす状態を指します[3]。 もっと分かりやすい数字で考えると、 5軒のうち1軒以上の家庭で、食べ物がほとんどない 3人に1人以上の子どもが栄養不良になっている 毎日多くの人が飢餓や病気で亡くなっている ガザ地区の子どもたちの状況 ガザ地区では今回の攻撃によって、1時間に一人の子どもが亡くなっています。また、以下のようなことも起きています。 5歳未満の子ども7万人が栄養不良になりました。 1歳未満の子ども1,009人が犠牲になりました。 2万1,000人が手足などを失いました。 1万7,000人以上が養育者や家族を失いました。 妊娠中や赤ちゃんに母乳をあげている女性1万7,000人も栄養不良です。 栄養不良で亡くなった人が269人(そのうち112人が子ども)います。※ほかの病気との合併症で亡くなった子どもを含めれば、さらに数は多いと予想されています。 ガザ市地域の生後6~59ヶ月の子どもにおける栄養不良の割合(出典:2025年8月5日人道外交議員連盟UNRWA清田明宏医師発表資料より) 「飢饉」に関する声明が出されたことが意味すること 2025年8月22日、日本時間の18時に、国連は「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」に基づきパレスチナ・ガザ地区の中心地で北部に位置するガザ市での「飢饉」の発生を公式に発表しました。 これは、「世界中の国や支援団体が緊急に行動を起こさないと、多くの人(特に子どもたち)が死んでしまう」と正式に警告を発したという強いメッセージなのです。 セーブ・ザ・チルドレン・インターナショナルのインゲル・アッシン(Inger Ashing)事務局長は、イスラエル・パレスチナ紛争に関する国連安全保障理事会で演説した際に、飢饉がどういうことか、そして子どもが飢餓で命を落とすとどうなるかを、以下のように描写しました。 食料が不足すると、子どもたちは急性栄養不良に陥り、ゆっくりと苦しみながら死んでいきます。その過程は数週間かかります。簡単に言えば、これが飢餓です。最初は体は生き残るために自身の脂肪を使いますが、体脂肪がなくなると、筋肉や重要な臓器を使って自らを消費し始めます。子どもたちは体力が衰弱しすぎて泣くことさえできないのです[4]。 現地の子どもやお母さんの声 ナイルーズさん(9歳と10歳の子どものお母さん)「今の私の願いは、ただ『食べること』と『子どもたちに食べさせること』だけです」 リームさん(14歳)「4日間、食べ物も水もありませんでした。お店に行っても値段が高すぎて何も買えません。お母さんが買い物に行くとき、私はイチジクやブドウを心の中で思い浮かべますが、お母さんは何も買って帰ることができません」 栄養不良がひどくなった子どもたちは、泣く元気もないほど弱ってしまっています。 なぜこんなことが起こっているの? この飢饉は自然災害ではありません。ガザ地区が完全に封鎖され、食べ物や薬が入らないよう制限されているため、人為的に起きています[注]。戦争で食べ物を武器のように使うことは、国際的なルールで禁止されています。 世界中の支援団体や国連は、ガザの人たちを助けるための物資を用意して、ガザの入り口まで届けています。 しかし、その物資をガザ地区の中に入れる許可がもらえません。 [注]人為的とは、「人が理由で起きた」ことや、「人がわざと引き起こした」ことを指します。ここでは、ガザで人々が飢えているのは天候などの自然を起因とする理由ではなく、(政治的な理由などで)人間が引き起こしたことを意味しています。 私たちの願い あばらが浮き出た、枯れ木のように細い手足の子どもを抱くお母さんの気持ち、耐えがたい空腹にさらされ続ける子どもや人々の気持ちを考えると、強い怒りと悔しさを覚えます。 セーブ・ザ・チルドレンをはじめとする支援団体は、次のことを強く求めています: すぐに戦争を止めること 食べ物や薬をガザ地区に届けること 国際的なルールを守ること 各国の政府が協力して、この飢饉を止めること ガザ地区の子どもたちを助ける時間は、もう残っていません。一日でも早く、この状況を改善しなければなりません。 <参考> おとな向けの記事はこちら:ガザ地区における「飢饉」の発生に関する声明 海外事業部 金子 由佳、アドボカシー部 唐 語思 [1] UNOCHA “Reported impact snapshot | Gaza Strip (10 September 2025)“.[2] WFP 「食料がある状態から飢きんに至るまでの5つの段階」2024.03.18[3] Integrated Food Security Phase Classification(統合食料安全保障段階分類(IPC)に基づく評価で、最も深刻なレベルである「IPCフェーズ5」[4] ガゼタエクスプレス 「セーブ・ザ・チルドレン:ガザの飢えた子どもたちは泣く力さえない」2025.08.27